大学院工学研究科を設置
より高度な工学教育と研究を目指す
公開日:2023/2/6
本学は小西寫眞専門学校の創立以来、写真及び印刷の各分野に多くの人材を送り出してきた。1966(昭和41)年に新設された工学部は、写真をルーツとした応用物理および工業化学を軸に、高度な知識と技術の修得に力を入れていた。
工学部は設置当初の写真工学科、印刷工学科という2学科体制から、工業化学科(1973年)、建築学科(1974年)、電子工学科(1976年)にまで教育課程を広げ、幅広い業種に卒業生を送り込むまでに発展していた。さらに1976(昭和51)年には、印刷工学科を画像工学科に名称を変更する。印刷技術や写真製版から、時代のニーズに応えて、二次元・三次元デザイン、電子写真など、画像技術を応用する様々な分野に広がる新しい研究や学びを実践していくため、印刷工学科を画像工学科に改称したのである。(第15話参照)
1974(昭和49)年に理事長に就任した西村龍介(にしむらりょうすけ、1903-1989、第19話参照)の下で、工学部キャンパスの拡充も行われた。工学部のある厚木キャンパスでは、周辺の土地を相次いで買収して敷地を広げていった。1973(昭和48)年には工学部図書館、1974(昭和49)年に4号館と5号館、1975(昭和50)年に創立50周年記念図書館、1976(昭和51)年に建築学科実験室、1977(昭和52)年に6号館など、新しい施設が次々と竣工し、学科の増設に合わせて在学生が増えるのと並行して学修環境は一層充実していった。
理事会で大学院設置を提案
工学部の設置から10年余りが経過して学部の基礎が固まってくると、大学としてより高いレベルの研究や教育を実践していくために、大学院を設置しようという機運が高まった。大学院修士課程の設置審査に必要な研究設備が充実してきて、教員による研究業績も増え、認可に必要な条件を満たせるようになったことで、学内から設置を望む声が出てきたのだ。
1977(昭和52)年9月の理事会では、西村理事長が工学部に大学院を新設し、修士課程の画像工学専攻と工業化学専攻を設置することを提案した。写真をルーツとする本学にとって、画像工学関連の教育や研究をすることは他の私立大学にはない独自性を打ち出すことができる。また、当時の工学部には既に工業科学の幅広い分野の教授陣がおり、画像工学と工業化学の分野で多様な教育と研究を実践できることも大学院新設の好材料となった。
理事長の提案は全員異議なく可決され、すぐさま文部省(現在の文部科学省)へ大学院修士課程設置の申請準備が進められたのである。
翌1978(昭和53)年3月、本学に大学院工学研究科修士課程を設置することが認可され、4月に画像工学専攻(入学定員6名)、工業化学専攻(入学定員6名)が設置された。
画像工学専攻は、学部の写真工学科と画像工学科を基礎とし、写真、印刷、電子画像を中心に、高度な学術的、技術的な研究とゼミナール主体の教育を行った。工業化学専攻は、工業化学科を基礎として無機工業化学、工業物理化学、有機工業化学、高分子工学、反応工学等を深く研究することができる課程とした。
工学研究科修士課程は、1990(平成2)年には建築学専攻と電子工学専攻、1997(平成9)年には光工学専攻が増設され、5専攻体制となった。学生たちは学部4年間の学びを修士課程の2年間で一層深め、研究の成果を学会や論文で発表することができるようになり、研究者として成長する場が広がっていったのである。
研究と教育を深めるため博士課程を設置
高等教育研究機関として研究を一層深めていくため、博士課程が設置されたのは1994(平成6)年のことだった。文部省による認可に当たっては、教員の研究業績と教育における指導能力が修士課程よりも厳しく審査された。本学は私立大学の中でも企業と数多くの共同研究を行ってきたことで研究費が充実しており、研究論文の数も多かったことが博士課程の認可を後押しすることになった。
博士課程は1994(平成6)年の工業化学専攻と電子工学専攻に始まり、2001(平成13)年には建築学専攻、2002(平成14)年にはメディア工学専攻が増設された。
大学院を一から築き上げていくため、教授陣や学生たちは多くの時間と努力を要したが、本学大学院出身者に対する社会の評価は極めて高く、大手メーカーの研究職に就く者も多かった。現在も本学大学院で学んだ知識や技能を生かし、多くの人材が電機や情報、印刷、写真、設備、建築・建設、施工管理など、幅広い分野で活躍している。
参考文献:
・東京都写真美術館叢書『日本写真史への証言』亀井武編、淡交社、1997年
・『東京工芸大学大学1979案内』学校法人東京工芸大学、1979年
・『東京工芸大学1983大学案内』学校法人東京工芸大学、1983年
・『白川英樹先生を囲む懇談会の記録』、東京工芸大学大学院工業研究科2003年
・学校法人東京工芸大学理事会資料
取材協力:
・大塚正男、東京工芸大学名誉教授
・鈴木正夫、東京工芸大学名誉教授
・白井靖男、東京工芸大学名誉教授